只今十六匹にて候  <十六両目は居候猫の『ホリゾン』>

 長々と続い猫の電車もこれが最後となる。
         いよいよ、最後、最後尾車は
               どんな猫がのっている!

       *       *       *


 みちると小雪の出産を控えていた時期に、私は頭の痛い問題を抱えていた。
それは、我が家の猫をつけまわす乱暴者の洋猫の存在である。
洋猫はグレイのペルシャのオス猫で、意地の悪い顔立ちと性格をもっていた。
ちるちるを神経症に追いやったのも、年頃のみちるを追いかけまわしたのも彼であっ
た。
首輪をしたれっきとした、飼い猫ながら、家では大切にされていないように見えた。
というのは長毛の彼は、春の毛変えの時期にブラシをかけたりの手入れをして貰わな
いので、抜けた長毛が毛玉になって、その毛玉がからんで、フェルト状になってしま
っていた。さながら、堅い鎧をまとった格好で家のまわりに潜んでいた。
ほんとは、潜んでいたのではなく、昼寝をしていて、うちの猫の姿を見ると、追いか
けるだけかも知らないが、弱虫のちるちるは、庭に出られなかった。
ちるちるは逃げ足が遅いのか、何度も尾や後足を噛まれた。
ある時は大切なタマを噛まれて、赤むくれになったりした。
飼猫なのに、私に威嚇のうなり声をあげたりする猫でした。

 この洋猫がこともあろうに、コギャル猫の小雪とオトモダチになって、堂々と、我
が家に出入りするようになったのである。シンジラレナーイ。
御飯時には、十六匹目の猫になって並んで待っている。
オスの黒兵衛とちるちるは、あまりいい顔はしないが、洋猫は平気である。
私もこの洋猫は憎らしいので、「帰れ、帰れ」をするが、帰らない。
いつの、ほどか、私はこの洋猫の鎧のような毛を鋭利なはさみで、少しづつ、切って
やるようになった。
ほぼ、完璧に鎧がはずれたころ、洋猫と私の関係は普通ではなくなっていた。
<縁は異なもの味なもの>というが、洋猫は私を情婦あつかいにするのだ。
下宿のおばさんに対する親しみ以上の態度に出るのだ。
テラスの外で私を呼んで鳴くし、出てやれば後足で犬のように立ち上がって前足で私
を抱く。腰をおろすと、膝にあがる。草むしりしていると、肩にのぼってくる。
十五匹もいるのに、彼のように濃厚な愛情表現をする猫はほかにない。
彼は十六匹目の猫として居候の身分で居るようになった。

 観察してみると、土曜日と日曜日は実家に帰るらしい。
彼の首に、<泊まっていくことも、ありますが、名前は何といいますか?>と結び文
をくくり付けたが、返事はなかった。文は落としたのかもしれない。
生れた、子猫たちをいじめもしないし、たまに外猫が庭に闖入した時は、いちばんに
走って行って追い出す猫になった。

 十六匹目の、彼のことは、我が家では『ホリゾン』とよんでいる。
わけは、性格改善のために夫がひととき与えた、薬品名である。

                               (次へ続く)

     <おぼえメモ>

たしかに、ホリゾンの写真があった
はず、探して載せます。

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