只今十六匹にて候  <九両目は水色の瞳『みぞれ』>

猫電車という発想、面白いでしょう!
 十六連結の夢の猫電車!
  本当に生きている猫が乗っているよ!

       *       *       *

 『みぞれ』は息をのむほど美しい水色の瞳をもった白猫である。私はこの子
には瞳にあわせてブルーの首輪をしてやろうと決めていた。ブルーは『みぞれ
』だけの色である。
みぞれは将来どんな目の色の仔猫を産むのだろう。

 テーブルの下の育児箱の中で仔猫達が元気に動きまわるようになった。私は
託児所の所長さんよろしく、新しい育児コーナーを居間の長椅子の後に設置し
た。例によって、ダンボールを切ったり張ったりのばしたりで、カッターとガ
ムテープで「細工は流流仕上げをご覧じろう」なんて楽しんでいたら、みちる
ママが私に反旗をひるがえして、独自の育児体制を主張してきたのだ。

 外出から戻ったところ、家人が浮かぬ顔をしている。目で導く先を追ったら
、みちるが仔猫をくわえて運んでいる。なんと、玄関横の客間の椅子に運んで
いる。布張りのゆったりした椅子ではあるが九匹は無理だよ。
小雪も浮かぬ顔をしている。毅然としたみちるママに小雪も私も手が出せない
で見守るばかりだった。頼りなげな新米ママのみちるが母として仔猫をくわえ
胸を反らせて自信に満ちて運んでいる。ある種の感動に、誰も止めることも出
来ずに見ていた。
《本能にのっとって母性権を行使している時は何人もこれを阻止することはで
きない》

 九匹を一つの椅子に全部もりあげて「どんなもんだ」と言わんばかりにして
いる。仔猫はこぼれかかっているのに。最初から、みちるは九匹全部を我が子
とみなし、なんら区別も差別もしない。この辺がまた不思議な感動を催すとこ
ろ。

 時が経って今、あの時のみちるの気持ちが判る。あの椅子はみちるにとって
家の中では、特別の場所であるのだ。ちるちる兄ちゃんと気取ったポーズのポ
ートレートを撮ったところでもある。
みちるは仔猫たちのお披露目をしたのであった。九匹の仔猫が椅子に盛りあげ
られているところを写真に撮ってやればよかったのに、シャッターチャンスを
いつも逃がしている。おしっこを漏らしているのもいるし、椅子から転げ落ち
ているのもいる。
私は猫ファミリーの最高責任者としてシカルベキ処置を施行せねばならぬこと
を悟った。
そこで、パパ猫のちるちると黒兵衛が寝起きしている、庭に面したもと温室に
仔猫達を移すことにした。

 お産の時から部屋を締め出されて、訳が判らず怒っていたオスは、季節もい
いし一人前のオス猫らしく、家にはいないで、ほっつき歩いたり、屋根に寝転
んでいたりした。

 ちるちるパパは頼りなくとも、黒兵衛は仔猫たちをガードしてくれると期待
した。

 雪之丞だって仔猫のちるちる・みちる兄妹を命を掛けて守ったではないか。
まず、足がパイプでできている古机を運んで、その上に例の育児箱を置いた。
箱を床ではなく高い場所に設置したのにはわけがある。
母猫が仔猫を敵から守る時は高い所に置いたほうがよかろうという私の判断で
ある。敵として私が想定したのは、まずよそのオス猫とカラスである。

 移動した日は大変だった。
ママ達は神経過敏になって庭の気配にイライラする。近所の犬や子供たちの声
にも過敏になっている。庭に犬や子供は入っては来ないがカラスがくる。近所
のお墓の供え物を狙っていて、我が家の庭の木にとまって、仲間で大声の情報
交換をするのだ。

 母猫が二匹いたら、簡単にからすに仔猫を盗られることはあるまい。
しかし、仔猫がこぼれ出ていったら話は別である。
私は仔猫が庭にこぼれ出ないように、猫部屋内に母猫だけが飛び越えられる垣
を、古網戸とブロックで簡易に工作した。
最高責任者らしく、離乳食やトイレの躾をはじめた。そして、賢いおこげが、
いちばんに頭角を表わしたわけである。

 最初におしっこをした場所に次もするのが猫の習性なので最初にきちんと教
えなければいけないのだが、失敗した場所に何度もいくのもいる。トイレを教
えても自分の決めた場所に固執するガンコもいるのだ。

 毎朝床石をデッキブラシを使って水洗いする。そこで、パイプ足の机が生き
るのだ。猫たちは濡れないように机の上の箱に入れて、水道からホースでジャ
ージャー、ブラシでゴシゴシとやる。躰を濡らすのが嫌いなはずの猫の中にも
変わり者はいて、自分から水に向かってくるのもいた。誰だかは忘れた。
なにしろ、その時はまだ名前がついてなかったから。     (次へ続く)

      <おぼえメモ>

みぞれ 平成10年4月12日誕生
    平成11年春に避妊手術後
    突然蒸発する

 

 


   庭で遊ぶ白い子猫たち

(後記)平成十一年三月、猫が車に上
って汚すという近所の苦情に、飼主の
責任の一端として、みちる・小雪の母
猫は勿論、二匹が生んだメスたち六匹
全部に避妊手術をした。
みぞれは術後に消えた。
あまりの美貌にさらわれたと、信じて
いる。 

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