ニャンともはや物語  第八話 子猫をもらってください

小雪の生んだ、二組のそっくりさんのメスの部は『あられ・みぞれ』と名付け
た。母猫の名前から、自然に浮かんだのです。

オスの部のそっくりさんは、水色の目をしているがその水色が右目にあるのと
左目にあるのの違いが、相違点である。幸福を呼ぶ『金目銀目』と言ってどこ
かの国では珍重される猫らしい。
ネーミングが難しい。
父猫認知の証拠の水色を名前にいかさなくっちゃ面白くない。

ヒラメキ!
ブルーライトだ!
右目が水色のが『ブルーライト・ヨコハマ』だから『横浜君』なのだ。
この『横浜君』が猫としてはヘンテコリンな名前から解放されるドラマが、後
に彼の上におこる。
ちなみに、残ったほうは、思案がつかずに、結局、最も実用的な名前にした。
平成十年四月誕生だから『十年』と命名。
生まれた年を名前にすれば、年齢を絶対に忘れないというわけ。
「じゅうねん!」「じゅうねん!」と呼んでこちらは一休さんの世界である。 

トイレのしつけも完了して、キャットフードも食べられるようになった。
里親を捜してやらねばと、来客はもちろん、人の顔を見たら「子猫を貰って」
とやっていたのに、お声が掛からない。
そんなある日、友人がフリーマーケットに参加すると聞いた。

ヒラメキ! 
子猫たちをフリーマーケットに出すのだ。
可愛い子猫を見たら誰でも欲しくなるに決まっている。
友人もフリーマーケットに子猫は面白いと乗り気になってくれたが、規定で食
べ物・ナマモノはだめだと知らされる。「猫ちゃんは、生きているからナマモ
ノだって!」と電話で笑っている。それでも、私の苦境を知っている友人は、
知恵を絞って『子猫を貰ってください』のチラシを店頭に置いてくれるという。

《子猫が生まれました。生後ひと月半。トイレのしつけ済。本日のフリーマー
ケットの帰りにお寄りください。平成十年五月二十四日》自宅地図を大きく書
き出したゴシック体のチラシを数十枚友人に託して、私は自宅で子猫達と待機。

哀惜の情は否めない。私が誕生に立ち会った子猫たち。フリーマーケットに集
まった猫好きな人はひやかしでも大勢来てくれるだろうと哀惜とは反対に楽観
的予想をしていた。ところが、思うようにいかぬのが世の常。二人連れが一組
しか来なかったのだ。一組だけは来てくれたというべきかも知れない。庭がな
いというその人に、「土がなければ、大変かもね」と言ってしまった。大人猫
のトイレ問題は結構大変であるから。
あとの祭りである。なんてトンマな私。
もらい手を逃がしたことより、気分を害させてしまったかも知れないことの方
に、気が滅入った。ご縁があるものなら、今ふたたび我が家に遊びにお越しい
ただきたい。
   
        ご破算で願い上げますまねき猫
                 

                         (第九話に続く)

     <陸奥新報掲載>

 平成11年11月11日 14面

 

 

 
黒兵衛と小雪の産んだ『さくら』。
黒兵衛は子猫たちを可愛がった。

 

 

 

 

   

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