ニャンともはや物語  第七話 遺伝は薄まる

《目の色について》
生まれた子猫のうち白毛が五匹いた。
五匹とも目は水色。
母の小雪は金目だから、ブルーの目のちるちるの遺伝に間違いない。
そもそも、実家の母が育てたオス猫は紺碧(こんぺき)の宝石のような目の色
だった。紺碧は薄まりブルーになってちるちるに遺伝。
五匹のうちメス二匹はブルーを薄めた水色。
うっとりするほど、きれいな水色。
オスの二匹は目の色が左右ちがう。片方だけが水色。
俗に言う金目・銀目である。西洋では幸福を呼ぶ猫と言われているらしい。
あとの一匹のオスは水色をさらに薄めた色。
水色をさらに薄めた色は蒸気色か氷色かと私は詩人風に思い悩む。
「遺伝は薄まり、おでんは煮詰まる、なんちゃって!」

《ちる平という猫》 
四匹が母猫小雪と同じに純白なのに、このオスだけが、基本は白猫なのに父猫
ちるちると、まったく同じに耳から目にかけて薄い茶色をしている。
しっぽも長くて薄茶色。ちるちるのコピーだから、ちる平と名付けた。
私をして、詩人風に悩ませた目の主である。薄い目の色のちる平は強い陽射し
に弱いらしい。しょぼつかせた目でソロソロ階段をおりるさまは、足元がおぼ
つかないらしい。
白猫で目の回りが赤毛のちる平が千鳥足で歩いているのは酔っ払いのようで笑
ってしまう。
「ちる平、昼間からご機嫌だね」と言ってやれば、お腹を見せて転がり犬のよ
うに喜ぶ。喜びかたも父猫ちるちるにそっくり。
「ちる平、君の父ちゃんは、どこへ行っちゃたんだろうね?」外泊の多いオス
の常で、ちるちるは、外泊を重ねているうちに、ついに帰って来なくなった。
私は数か月たった今でも、帰りを待っている。
ともかく、けんかに弱い猫で、しっぽや尻をかまれる。
ある時は、急所のタマを噛まれてきた。まともに、けんかをしないでただ逃げ
るらしい。

(雪之丞は子猫のちるちる・みちるを守って戦ったあげく、片目を潰したとい
うのに)

弱虫のちるちるが五個のコダネを残せたのだから、「あっぱれ、でかした」と
言ってやりたいが、現実問題としては、このあたりから私の苦悩が始まってい
るのだ。
「それにしても、飼っている数が多すぎる」ごもっともです。
一言の弁解もできません。

《小雪の失そう》
小雪とみちるの二匹の母猫による協同育児もほぼ終了のあたり、みちると黒兵
衛の愛の活劇がまた再演されることになった。
今度はすぐにクライマックスを迎える。
さすがの私も、もう仏の顔はできない。
母猫二匹に避妊手術をほどこした。
一週間後の抜糸をしたその夜にヤンママ小雪は姿をくらました。
どこかで、ちるちると落ち合って一緒にくらしていてくれたらいいのになーと
私は空想する。

          夕焼けて別れも言えず消えた猫

                      (第八話に続く)
            

     <陸奥新報掲載>

  平成11年11月4日 10面

 

 

 

 消えた『ちるちる』
   

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