《なめ殺しの術》
ヤンママ猫の小雪は自分の子猫を全部みちるの箱に運んで共同育児に持ち込ん
だ。子猫はあわせて十匹。みちるは迷惑どころか大喜びで世話をしていた。
断言できるが、自分の子とそうでない子の区別はまったくしないで、まんべん
なく愛情ぶかく世話をする。未熟な感じだったみちるの豊かな母性に感動。
ちょっと気晴らしして帰宅したヤンママが子猫を戻してくれと頼んでも、みち
るは渡そうとしない。そんな時にヤンママは、したでに出てみちるの顔をなめ
まくって、ついに箱から追い出して子猫を取り戻す。これをなめ殺しの術とい
う。
《パパ猫の産室見舞い》
二匹のお産の時から、オス達は居間から追放して、庭に面した温室でくらさせ
ていた。 ある日、居間に置いてある育児箱に黒べいがいるのを発見。
「見舞いにきました」とすずしい顔をして子猫をなめている。
こころみに、ちるちるにも、子猫を見せたがこちらは後ずさりしてしまう。
「ちるちる、君のコピーが五匹もいるよ」。ちるちるゆずりの青い目の白毛の
子猫が五匹も産まれた。弱虫の昼あんどんタイプのちるちるも小雪にコダネを
仕込んでいた。五匹はちと多い。
《一晩の子連れ家出》
平成十年、初夏。かわいい盛りの子猫が二匹しかいない。
後の連中はどうした。咄嗟(とっさ)にカラスに獲られたと思った。
みちるの顔をみたら、どうもそうではないらしい。
ウキウキした顔をしている。あやしい。
私は子猫捜索の作戦を立てた。銭形平次の手下ガラッパチの八五郎のように、物
陰にひそんで見張った。みちるが、子猫をくわえてブロックべいを越えてお隣の
物置の屋根裏に運んでいくのをつきとめた。
みちるからは信頼されていると思い込んでいた私はショックだった。
我が子の巣立ちに、やれやれとしながらも、虚脱感を持て余していた私。
やり残したことも見つけられずにグズグズしていた私。
子猫誕生がどれほど私を喜ばせたことか。(私の愁嘆場はここまで)
私は猫ファミリーの総責任者として、お隣に出向いてお願いをした。
「実は、カクカクシカジカ、お宅の物置に、子猫と母猫をしばしカクマワレたし」
おおらかな奥さんは笑って承知してくださった。
育児の主導権はみちるが握っていて、彼女の独断らしい。
ヤンママ小雪はおろおろするばかり。授乳のため私はヤンママをそっと物置小屋に
忍び込ませた。餌を運んでやらねばと家族と相談していたら、翌日に子猫たちは二
匹の母猫にくわえられて全員帰宅した。
私はカメラをかまえて喜びのシャッターを押しまくった。
「キャットフードと水のある家に帰りましょうよ」なんて小雪が言ったのかな?
子連れ猫の迂回している水溜り
(第七話に続く)
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