みちるが長いしっぽをお腹の下に巻き込むので、黒べいが首のあたりをかんで
乗っかっても、ことは成就しない。「猫でも大変なんだね」居間でくり広げら
れる未熟なラブシーンの観察にも飽きてきたある日、ギャアーというすさまじ
いみちるの叫び声で愛の成就を知った。コギャル小雪もママになるらしい。
「まさか、産ませるんじゃ、ないだろう?」に、グズグズ煮え切らない態度で
時をかせいだ。コギャル小雪は、白ふぐのようにパンパンになりながらも、毅
然(きぜん)とした美しい顔になっていった。
平成十年の春、みちるはかねて用意の流し横のダンボール箱で落ち着いて四匹
産んだが、二匹はお乳を吸えずにすぐに死んだ。
数日おくれて小雪は出窓の戸袋に用意した小雪用のダンボール箱で出産した。
こちらのお産はシッチャカ・メッチャカだった。
産み落としても臍帯(さいたい)をよくかみ切らずに飲み込むので、子猫はた
らこ状のままで、母の口元にぶらさがったまま。
コギャルはぶざまにゲッゲッとむせている。
「小雪、落ち着いて、落ち着いて」と言って、口元でブラブラしている袋を引
っぱり出してやる。
ガツガツ食事をしていると同じ調子でわが子の臍帯もガツガツ飲みこむのだ。
コギャルのお産はコミックタッチのマンガだった。
なんと、なんと、コギャル小雪は初産で八匹もの子猫を産んだのです。
呆然(ぼうぜん)としている私の耳に、天の声が聞こえた。
《みちるに小雪の子猫を二匹委託せよ》と。子猫を二匹亡くしたみちるに、そ
っと二匹、委託するのはグッドアイデア。さすが、天の声、小雪も助かるわ。
八匹産んで気も転倒している小雪の方はいいとして、みちるママがほかの子を
受け入れるかな。恐る恐る、みちるの乳房に吸い付かせた。みちるはいとも簡
単に子猫を引き受けてくれた。気むずかしい気性のみちるが、豊かな母性に目
覚めていたのは、感動だった。天の声に甘えて、私は一匹超過して三匹の産ま
れたての子猫をみちるの乳房に運んだ。
更に数日後には、我が目を疑うことがおこった。小雪が自分の子全部を、みち
るの箱に運んでしまった。共同育児に持ち込んだのだ。
「きょう日の猫は、やることが、ちがうねー」と家族は感心した。
コギャル小雪は『ヤンママ小雪』といわれるようになった。母猫二匹がひとつ
箱の中で無差別に乳をやり、世話をする。一匹が留守の間は、一匹が全部を胸
に抱えて満ち足りた母の顔をする。
ちょっとしたオチがあった。小雪の八匹の中に、黒べいのコピーが一匹交じっ
ていたのだ。真っ黒で、しっぽが三角の形をしていた。みちると純愛をはぐく
んでいるとばかり思われた黒べいは、タネを一個だけコギャルに仕込んだとい
うわけである。やれやれ、オスは!
見つかった風のいたずらこぼれ花
(第六話に続く)
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