交通量の多い道路で大鳴きしていた白猫は飢餓(きが)寸前らしく「誰でもい
いから、食べさせて」と必死の形相だった。
道行く人達から無視されていた白猫は、当然のように私に付いて家に来た。
満腹になると白猫は盛大な愛想を振りはじめた。
膝に飛び乗りゴロゴロのどを鳴らす。
ちるちる・みちる・黒べえの存在は意に介していないふうだった。
首輪はないがなれなれしいから飼猫である。
「雪之丞の血縁かもね」と、懐かしい白猫雪之丞のイメージがダブった。
子猫だったちるちる・みちるをかわいがってくれたオスの雪之丞。
彼の血縁かもしれない白猫をムゲにはできないと家族は考えた。
雪之丞のエニシにつながる猫ならばと《小雪》と名付けた。
シミひとつない純白毛なのに、しっぽがよじれている。
それもくるりと上に巻きあげて。マンガに出てくる犬のポチみたい。
「これじゃ捨てられたんだね」
小雪はとにかく食べる。先輩猫に対するエチケットなしで、餌にとびつきガツ
ガツと最後まで食べている。そして、臭いおならをするのだ。
「これじゃ、捨てられるわね」
陸奥新報に《迷い猫を預かってます》の広告を出す気にならなかった。
平成九年、その時点でわが家は四匹の猫がくらすことになった。大皿でキャッ
トフードをいっせいに食べる様子はなごやかで幸せな情景だった。
世間では子供達のいじめ問題が嵐のように吹き荒れているのに、わが家の四匹
は平和だった。
みちるは鋭敏な感じの猫で、家のそとでは、私にもよそよそしくする。
そのみちるが黒べえに媚態(びたい)をしめしたり、小雪に鷹揚(おうよう)
に対しているのは、私をこよなく幸せな気分にしてくれた。
しばらくして、小雪が一晩家をあけた。
心配していたら翌日、血だらけになって帰って来た。と見えたが駆け寄って良
く見たら、血ではなく、赤い色をスプレーされたらしい。どこで誰にされたか
は迷宮いりである。
驚いたのは小雪がオス猫と一緒だったことである。
小雪は上機嫌で「昨夜お友だちになった彼よ」という顔をしてオス猫を連れて
帰って来た。首輪をした洋猫で、長毛は汚れて毛玉だらけだった。
それから、オスの洋猫は食事に来るようになった。
無遠慮なのは許すとしても、ちるちるを威嚇(いかく)するのは我慢できなか
った。
洋猫は居候(いそうろう)を決め込んで動じない。
「君には家があるんでしょう? 自分の家でご飯を食べなさいよ!」と、いく
ら言っても平気で食事に加わる。それ以来、小雪は《コギャル》と呼ばれるよ
うになった。コギャルの全身の赤色はだんだんとれたが、お腹のほうはだんだ
んと膨(ふく)れていくのでした。
居候の猫もあくびの鰯雲
(第五話へ続く)
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