ニャンともはや物語  第一話 天の声をきく

 十三匹の猫をかかえて、物好きをこえて、はた迷惑になっている。
弁解の余地がない。「大切な車に上る」「ウンコをしていく」「畑を荒らす」
「鳴いてうるさい」

 私は窮地に追い込まれています。猫たちのために花壇をつぶし砂を入れて専
用トイレを四カ所つくってやっても、ほかの場所をも掘り返して用をたす。
草をかんで毛玉を吐き出す。敷地内でじゅうぶん遊べるはずなのに、ブロック
塀(べい)を越えて出歩く。困ったことに、猫には境界線がない。

 「数が多すぎる」ごもっともです。私も普通の家庭で十三匹は多すぎると思
います。謝罪でご近所をまわった後は眠れなくなってしまう。どうして、こん
なことになってしまったのでしょう。

 日夜苦悶のなか、夢枕に天の声を聞いた。
<天下の大新聞に猫たちを登場させて、世間さまにあいさつをさせよ!>
 今や天の声は私のなかで野望と化して燃えたぎっています。

         *

 実家の小屋に野良が子猫を産んだらしい。母のはずんだ声を電話口に聞いた
時に、これから始まる『にゃんともはや物語』の幕が開く。新しいカメラを持
ったばかりだったので、子猫を撮りに行き、撮っているうちになんとなく母猫
とも打ち解けて、子猫をもらい受けるはめになった。「一匹では寂しがるから
二匹一緒に連れて行って」と母に頼まれた。この母は母猫ではなく私の母であ
る。

 もともと母の家には目の色が素晴らしい紺碧(こんぺき)のオスの白猫がい
た。捨てられていたのを母が不憫(ふびん)がって牛乳をスポイトで与えて育
てた猫で、当然便も取って体もふいてやるわけで、生きのびるのは困難に見え
た赤ん坊猫だったが見事に成猫になった。目を開いたら宝石のような紺碧の瞳
(ひとみ)だった。

 野良が産んだ二匹のうちの一匹はこともあろうに青い瞳の白猫であった。紺
碧をちょっとだけ薄めた青色の目ではあるがまっこと白猫であった。
「お前も、なかなかやるじゃない」と母は子猫を認知し母猫に餌をやったら家
に上がり込んで、夫婦気取りでくらしはじめていた。後には、牛乳育ちの紺碧
君と野良夫人は育ちが違いすぎたせいか、けんかが絶えずに、とうとう夫猫は
蒸発したという。猫とはいえ夫婦の問題なので母はハラハラしながらも、どう
にもしてやれなかったと言う。

 その時、私の家には『雪之丞』というオスの白猫がいた。流し台にとび上が
って蛇口から直接水を飲む猫だった。夜遊びの味をおぼえたばかりで、朝帰り
しては、水を催促する。「夜っぴで遊んで、のどが乾いた、早く水!」とにら
む。私は放蕩息子を迎えるおふくろさんのように駆けより蛇口をひねる。
  
       朝帰りの猫も新聞読みたがり

                           (第二話へ続く
            

     <陸奥新報掲載>

  平成11年9月23日 7面

 

 

 

 庭の紫陽花の下で、大見得を切る
 千両役者の『雪之丞』二歳。
   平成8年の初夏撮影

本館案内図へ戻る