帰ってきた『おこげ』 (1999年11月18日)

 

幽閉から数日して、『おこげ』は家出した。
私の胸中は複雑だった。

自由猫として生きたいのなら、そうしておくれ。
どこかで、ごはんを貰えるなら、それもいいではないか。

見ていると、おこげは実の母猫の『みちる』に特別に可愛がられているようには見えない。
みちるには、小雪の産んだ『ねぷた』がいつもくっついている。ねぷたは円満を欠いたと
ころがあって、近くの猫にいきなり猫パンチをくわわせる猫である。
だから、おこげは母のそばにいられないで可哀想と私は人間風に考えてしまう。

おこげは、山猫のような毛色の、ともかく敏捷なメス猫である。
そっくりな姉妹の『あわび』はさんまの開きを盗んだりのグルメ志向が禍いして、大通り
で車に轢かれて死んだ。おこげも死んだのか。あるいは、ここの暮らしが厭になったのか。

猫がいなくなると、飼い主としての責任からも、人間としての情からも責められる。
朝(17日)にテラスに鳴き声を聞いて、瞬間に「おこげが帰ってきた」と分かった。

よほど空腹らしい。大声で鳴きながら、食事をした。
食べるのと鳴くのが同時にできなきので交互にするのだが、その間に体を私にこすりつけ
る行為が加わる。
食べて鳴いてこすって、食べて鳴いてこすって、忙しい再会に私も歓声で答えた。

「食事の時だけ来てもいいよ」と言ったが、やはり皆と居ることにしたらしい。
おこげはもともと小柄なからだであるが、抱いたら空袋のように軽くなっていた。
2週間ぶりで仲間にもどったら、全員の猫が寄って来てにおいを嗅いだ。
丁寧に毛のなかに鼻を突っ込んで臭っている。猫同士は臭覚で会話するのか。
おこげは厭がらずに、身を任せている。別につらそうな表情もしていない。
母猫のみちるとの再会も、特別大喜びしているようにも見えない。

人間の私には、気違いのように鳴きついて喜びを表現したのに、仲間の中ではクールな
態度である。猫とは、このあたりも、不思議で面白い。

ともかく、おこげが帰ってきたので、我が家の猫ファミリは今日現在11匹である。

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