6 八種類の草の名前
マンホールの蓋のふちに溜まったゴミ土の中に八種類の草を数えて、ドキドキした。
よく見かける、たいしたこともない草なので、名前も知らない。
知らないどころか目の敵にして、さっさと抜き取っていた。
桃太郎よ。君にはどんな些細なことでも話したい。
君に話したいばかりに、私は草の名前を調べることを思いついた。
ドキドキしたのは、その思いつきに対してです。
紀伊国屋書店で『日本の野生植物』という本を買いました。
マンホールのふちで、いちばん幅をきかせていたのは<はなたで>でした。
車が上を通るたびに、頭をかがめてやり過ごしている、偉い奴。
<たで>とよばれる草の、種類の多さに驚いた。
<蓼(たで)食う虫も好きずき>と昔から言います。
<たで>は苦くて不味いのに好んで食べる虫もいることから、好き嫌いは人によって、
まちまちである、のたとえに言う。
つぎは、<おおばこ>で雑草の中の王様のような嫌われ者。
マンホールのふちの<おおばこ>は、プローチにしたいくらい小さくて愛らしい。
葉が赤ちゃんクローバのような三つ葉は<かたばみ>で、花は五弁で黄色。
私が子供の頃に、友だちが食べられる草だと教えてくれて食べた。
すっぱくで美味しくなかった。祖母に話したら、犬がおしっこをかけているかも知れな
いから、食べないようにと言われた。
私は君の父には、食べられる草だと教えた。
君の父は用心深い性質で食べなかった。
<つめくさ>と<なずな>は、へもくちゃで花もつけていない。
葉の様子で花を思い出して、本から探した。
<つめくさ>は坪庭の日陰にはえているぶんには、「苦しゅうない、ゆるしてつかわす」
という気にさせる、品のある草で、花は極小で白である。
猫じゃらしと呼ばれている<えのころぐさ>とただの雑草としか思えない<しば>であ
った。<しば>でさえ、こまかく種類分けしてあって、本の写真では私には分からない。
<はなたで><おおばこ><かたばみ><つめくさ><なずな><えのころぐさ><しば>
これで七種類、あとのひとつが分からない。
おそらく、春の草で充分成長していないものらしい。
なにしろ、小さい。来年の春には、きっと正体を突きとめるからね。
(1999/9/.29記)