49 ラルフ氏へ だいたい3ヶ月が経ちました
ラルフ様 御机下。
以前お手紙を差し上げまして丁度ひと月が経ちました。
この間に二週間ばかり、家をあけることもあってワザと百人一首の暗唱から遠のいていました。
記憶する脳のメカニズムの解明と実証を、自分のアタマをつかって検証しようと思いました。
それまでの学習の成果を空白の二週間後にテストしてみました。
予想どうりというか予想以上に忘却しておりました。
覚えていたものを半分以上忘れていました。
新しく覚えたものから忘れていました。ということは、古い方の記憶は温存されていました。
学習回数の多い歌は正確に記憶していて、後に記憶した歌はだんだんと手足の欠けた蛸になっていき、
後半のたこ壷は空っぽということを確認しました。
六十六歳の記憶力には絶望しました。
この場合の絶望とは放棄してしまうという事態を意味してはおりません。
2月20日にさしあげました『41ラルフ氏へ』から始めた百人一首の学習です。
今日は5月14日ですから、おおざっぱに言えば3ヶ月くらいのあいだのホソボソと行ったひとり学習
の結果の情けない脳の惨状に目をそむけることはしません。
もともとが自慢もできない我が記憶力ではありますが、老化に向かいおぼつかないながらも果敢に
挑戦するつもりであります。脳の機能というのは面白い。
我が傷みの激しい脳をなんとかなだめすかして、亡霊がさまよう廃虚とだけはしたくないと念じています。
中学生の時に記憶した詩はあれ以来、何十年も思い出しもしていないのに、今でもすらすら口をついて
でてきました。
かいなき恋を想うてる 人のそしりは厭わじな
告げえぬ胸の弱さをば 人こそ笑え恨むまじ
千尋の海のあこや貝 珠を抱きて病めるごとく
君を想いて病め伏せば 我にとこよの光あり
(2010.05.14)