41 ラルフ氏へ
ラルフ様 御机下。
私は翻訳物のミステリイが好きです。
お気に入りの女流作家も三人ほどいます。翻訳物を読んで大変に困ることがひとつあります。
それは登場人物の名前を覚えられないことです。名前が覚えられなければ犯人も捜すことができません。
名前を識別しなければ筋立てだって読み取れません。
今更、このように物覚えの悪い頭で、百人一首を覚えることは無理のようにもおもえます。
若い頃はこんなではなかったのですが、六十六歳にもなれば仕方がないのかも知れません 。
でも私は無謀ともいえることにチャレンジするつもりです。
これから百首の歌を覚えるのです。しぶくなった脳にチャレンジするのです。
百の歌をどのように覚えるか思案してみました。
和歌は上の句と下の句があってカルタ遊びでは取り札は下の句です。
上の句に続く下の句を覚えなければ札はとれません。
上の句が『あ』ではじまる歌は
16句あります。これを諳んじてみました。
しかし、上の句『あ』ではじまる歌よりも、下の句が『あ』ではじまる歌をピックアップして最初は
この方を覚える方が良いのではと気がついて、調べたら全部で八首ありました。
(ちなみに下の句でいちばん多いのは『ひ』で十首です。)
下の句が『あ』のもの八首を書き出してみましたら、上の句も『あ』なのが三首ありました。
この三首だけでもと必死で暗唱しました。
ありあけのつれなく見えし別れより あかつきばかり憂きものはなし
あさじゅうの小野の
篠原しのぶれど あまりてなどか人の恋しき
あさぼらけ宇治の川霧たえだえに あらわれ渡るぜぜのあじろぎ
この上の句と下の句が共に『あ』の句三首を数日前に四歳になったばかりの孫娘と、これからそらんじます。
それにもちょっと秘策があって、彼女の大好きな『いろはカルタ』に混ぜて遊びながらするつもりです。
四歳の脳は、そばで聞いているだけで兄の落語の『じゅげむ』を覚えてしまうのです。
若い頭脳は素晴らしい。
(2010.02.20)