21.イカの塩辛

生活がマンネリで行き詰まった場合、思い切って古い習慣を切り捨てると新しい道が開けます。(バンクーバーより:さらに植物論より引用)

これに関連してひとつ。
切り捨てていたことから、ひろい出すという逆の発想について。

私はイカの塩辛が苦手。生臭くて食べられない。
食べ物に好き嫌いのない私の、唯一苦手なものでした。
イカそのものは、大好きなのですが、のむ君くらいの時に長い切り身がのどに引っ掛かって呑み込めずに、子供ごころに死ぬおもいをしたのです。それ以来、イカの塩辛は食べられなくなりました。

この年になっては、ひとさまからみて意味がないような馬鹿らしいことにこそ意味を見い出して生活することに意味を感じます。
なんて、屁理屈を並べたら面白いことを言い出しそうでしょう?

車を運転中に偶然ラジオのスイッチを押しました。
今にして思えば、あれは神様からの放送だったかもしれません。
普段は、車でラジオを聞くことはないのです。
アナウンサーが、生い立ちにまつわる料理を長々と綴る文芸小説を朗読していたのです。
その中に、漁師町に住む叔父さんの作る、イカの塩辛は絶品であったと、作り方をこまごまと解説したくだりを、偶然聞いたのです。

「苦手なイカの塩辛を克服させてあげよう」これって、私に対する神様からの通信でしょうに。
好きなことしかしないという日頃の信条をちょっと脇に置いて、イカの塩辛作りを実行に移しました。
まず、普段通りに生きのいい真イカを買って、イカそうめんを作る。イカ刺しでもいい。
だいたい、足は湯がいて、ネギと共に酢みそあえにする。そして、黒い内臓は捨る。
これを捨てないで、袋をやぶかないように塩をまぶして冷蔵庫に保管。
塩によって出る汁は捨てる。これを繰り返すこと数日間。
なまなましかった臓物は汁気のない物体に変化。
そして、また最初の行為に戻って、刺身用の新鮮な真イカを買いに行く。
イカ刺しかイカそうめんを作る。
残りのイカを適当に切って(足もよし)、くだんの、汁気のない物体と化した臓物の皮を剥いで中をペースト状にしたものと混ぜ合わせる。剥いだ皮は捨てる。
唐辛子を一本投入してビンに詰める。

生臭味皆無のイカの塩辛の完成です。
すぐ食べてよし、冷蔵庫に保存して数日かけて食べてもよし。
母君に配達するもまた楽しからずや。

生臭みのまったくないイカ塩辛の作り方に終始したけれども、塩辛愛好家はあの生臭味を珍重しているかもしれませんね!

                       (2005.08.27)


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