18 バンクバーより:ゆりの花の最後の願い
“時計占い”を読みました。途中で絶句したのは私もおなじ。松森町でうちの通り向
かいに二軒の質屋さんがあったのは私もよく記憶しております。一軒はたしか吉野屋
という名前ではありませんか? 大きな暖簾とこみせ通りを使って弟とよくかくれん
ぼをしたものです。 でもあそこの持ち主については全く記憶がありません。五年の
歳の違いがもたらす観察の差に全く驚いています。 いえ、あれは単なる歳の違いだ
けではなく、あなたの環境とその結果から生じた感性によるものとおもいます。私は
あなたの言葉を借りると“極楽トンボ”だったのです。
さて“つた”と“つる”に関連して女性としての草木についてもう少し記したいこと
があります。花の美しさを愛するのは誰もがすることですが、花の存在の目的まで考
える人は数少ないようです。そう、花の使命は子孫を残すこと、もし種ができなかっ
たら無意味なのです。種を残すために草木はものすごい努力をするのです。
数年まえ、誕生日に 鉢植えの“calla lily”をもらいました。水芭蕉のような花で
す。花が終わったあと庭に植えたのですが、そばにある威勢のよい菖蒲に圧倒されて
calla lily は全く花が咲かなくなってしまいました。 ところがそれから二年ほど
して、全く忘れたころに、大きな花がさいたのです。見事な花のあとはたわわな実が
なりました。 ああ、ようやく根が確立したな、と私は喜んだものです。あまりに見
事な赤い実でものすごく心が惹かれたのですが、また咲くことを確信し、そのままに
しておきました。、、、、ところが翌年知りました。あれがあの植物の臨終でした。
あの見事な花は最後の叫びだったのです。それにも気づかず、私はあの赤い実を無
駄にしてしまったのです。あたかも死に際の女が差し出す赤ん坊を拒否したようなも
のです。無念です。
もうひとつ、これは“stargazer(星を見つめている人)”という名のゆりです。昨
年、三本のゆりがつぼみをつけたのですが、運悪くその一本のつぼみが蜘蛛の巣をは
られて咲く前にしぼんでしまいました。ほかの二本は普通に花を咲かせ、受精し、子
房が膨らみ種がたくさん中にできました。さて、花を咲かせることのできなかった一
本はどうしたとおもいます? 葉の付け根に小芋を製造したのです。つまりゆりの球
根のミニチュアです。私は種と小芋と両方採集して今年植えました。種は発芽しませ
んでしたが、小芋のほうはうまく成長し、来年は花が咲くと楽しみにしています。
猫とカラスだけではなく草木も加えて、“いきとしいけるもの”すべてに興味があり
ます。