171 ホームズから(サーフィンが出来るかね?)

                              
  親愛なるワトソンへ、

 僕の駄文が“懐かしいホームズの復帰”などという嬉しいタイトルを頂いてから早いものでもう10日も
たってしまった。 ゆるしてくれたまえ。 さてどこから続けようか、、、。
僕の記憶はおぼつかないが、人間は年老いていくという事実にいかに対処していくべきかということに
ついてやりとりしていたような気がする。 自分が年老いていることに全く気がつかない人間、あるいは
気がついてもそれを無視しようとする人間が一般的ではないだろうか。 
勿論、年齢が若いのに疲れきって老人のような気分でいる人間は最低だが。 
ところが、さきごろ年老いるという事実をサーフィン乗りのように操っている女性と出会った。  
つまり、押し寄せる波のリズムに合わせてそれに乗っていくという態度である。
      
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     「私は昔から健康で体もよく動くので、バスに乗ればいつも他人に席を譲っておりました。 
    それが2年ほど前から車内で立っていると“お座りになりませんか?”と席を申しでられる
     ことがあるようになりました。 白髪が増えたせいでしょう。 そのたびに、大丈夫ですよ、
     と笑顔でお断りしたものです。 
    ところが、先日食料品の買出しで大きな袋を3つもかかえてバスに乗ったら、大学生で満員、
     身動きもできないくらい。 そのときは私も席に座って荷物を膝にのっけたら楽だろうな、
    と思ったものです。 目前の席は体格の良い男学生3人で占めるられている。 
     ところが、誰一人、として席を申し出る様子が無い。 私は内心イライラしてきました。 
   (この春休み中の自堕落学生どもめ。 大きな荷物をかかえた老女(?)に手を差し伸べる
     エチケットもない馬鹿者ばかりだ。 いったい何を学んでいるのだ! 今時の若い者は、、、
     という常套句が烈火のごとく私の頭をかけめぐりました。 
     そんな調子でようやく自宅までたどり着きました。お茶で一服したあと、自問自答しましたの。 
    “ひょっとしたら、あの学生は健康そうに見えても病気だったかもしれない、、、いや、3人
     全員が病気だったわけがない。 では、どうして、、、あそこまで一般の礼儀がおちたか! 
   (そういえば、最近公衆トイレでノックもせずにドアを開けようとする人間が多くなった。 
    あれと同じ傾向か?) 憤慨がまたしてもよみがえってきました。 
    そこで、はたと気がついたのです。 
    では、相手の申し出を待っていないで、どうして私が“席を譲っていただけませんか?”
    と言い出さなかったのだろう? 
    この白髪と大きな荷物をもっていて、誰も NO というわけがない。 
    直ぐ席を譲ってくれただろう。 
    彼らがそれをしなかったのは、いや、できなかったのは、20歳前後の男子はぎこちの無い存在
     だからではないか。 とくに同年代のグループで行動していると、自由行動ができなくなる。 
    さらに年齢と文化と性別が異なる人間には、どう対処していいかわからないのでは。 
    言葉の使い方もわからないし視線が合わないように眼をそらす。 
    だから、あの時こそ、この年上の私が笑顔で席を求めるべきだったのだ。 
    そうしたら、私は席を得られただろうし、彼らは未知の人間に席を申し出るということは思いの
     ほか簡単でしかも感謝されることだと経験したはずだ。 

     だから、私は決心しました。 これからは、待っていないで私からアプローチしようと。 
    聖書にもありますよね、“求めよ、されば与えられるであろう”。 
    そして与えることのできた人間にとってもそれは喜ばしい経験なのです。 双方が得します。 
    白髪と歳と笑顔を能動的に使うことにしました。」
         
        
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なかなか清々しいイメージだろう。

ホームズ

               (2010.03.30)


    


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