163 ワトソンの東京暮色(夜の来訪者の正体)

 
         

ホームズ殿

僕の古い女ともだちが娘さんの結婚を有頂天になって喜んでおったというこをを人づてに聞い
たのは今から数十年も昔であった。娘さんは母親とは個性を別にした健全な家庭婦人らしい。
娘さんが抱える家庭問題に母親がやきもきしているが、どうにも解決策どころか問題の核心を
もつかめないでいるようなのだ。
母親にどうにもならないことが、隠居のぼくにだってどうしようもないではないか。

最初にも話したように、女ともだちは僕からみたら面白い女性なのだ。
彼女は霊魂というものを信じていると明言してはばからない。
「 最愛の兄が死んだ時にさまざまな異変がおきました。使っていない部屋に電気がともったり、
消した筈の部屋に明かりが灯っていたり、霊魂となって訪ねて来たと確信している」と。
僕はこれでも、一応、科学で飯を食ってきた身だから 霊魂などは信じていない。
だいいち、あれほど会いたかった父の霊も祖母の霊も一度も現われてはくれなかった。
彼女は「霊に敏感な人も、鈍感な人もいろいろだから」と結んでいたから、僕は鈍感の方だ。
霊魂は姿は見せないが電気はあやつれるのか、、、、そういえば、テレビ画面から這い出して
くる幽霊が流行ったんだぜ、日本では。
以前、何かの本で亡くなった人が訪ねてきたことを、故人が生前に愛用していた葉巻の香りで
気がついたというのを読んで、文学的な美しい表現だと感心したことがあった。
僕は、若かりし頃に憧れた女性の還暦を過ぎた姿に、ぼくには全く無いスピリットのような
血湧き肉躍るものを感じてしまうのだ。ホームズこれって、やっぱり、危険かなあ?



 
      ワトソン          

                            (2010.02.06)


    

 

 


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