161 ワトソンの東京暮色(女ともだち)

 
         

ホームズ殿

くだんの女ともだちが言うことがふるっておるのだよ。
「昔からあまり長生きはしたくないと思っていましたが殊更その感を強めました。
『楢山節考』というあの習慣は日本独特のものではなくカナダのエスキモーにも同じ習わしが
あったそうです。つまり年老いて部落生活に貢献できなくなった老人は流氷に乗せられて遠方
に送られるそうです。わたしの場合はウイスキーを積んで行くわ。オンザロックでぐいぐいよ」
と捨て鉢な冗談を言っておった。こんなジョークを飛ばす彼女は素敵である。僕も流氷に便乗
して、、、いやこれは駄目であった。寒さとアルコールは僕の最大の敵なのだ。
せっかちなホームズの苦い顔が浮かぶよ。これから話すよ。話すよ。

本題に入るが、いける口の女ともだちが悩んでいる問題は彼女の娘が嫁いだ先の老人問題なのだ。
なんでも昔はそれなりに名のある書家らしかったが現在はテレビの前での居眠りが生活の中心だ
そうだ。居眠りのあいだに 広い庭を草花を愛でながら散策するそうだ。美しく枯れた舅だそうだ。
女ともだちが言うには、何ひとつの不足のない縁談で親としては拍手喝采で嫁がせたそうなのだ。
娘を拍手喝采で嫁がせる母親も珍しい。たしかに彼女は個性的なチャーミングな女性だったなあ。
その昔、歯牙にもかけて貰えなかったのは、ぼくがアルコールアレルギーの体質のせいだったので
はと 今頃に気がついたよ。こんな、僕のぼんやりも彼女は気に入らなかったんだろう。

すぐに横道にそれる僕の話を怒らんでくれ、ホームズ。


 
      ワトソン          

                            (2010.02.03)


    

 

 


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