160 ワトソンの東京暮色(古い女ともだち)

           

 ホームズ殿

古い女ともだちより依頼された家庭内問題で解決の糸口がつかめないでいると他人事のように言ったが
実は、どこの家庭でもというか、長生きした全人類におこり得るオーソドックスではあるが大問題なのだ。
察しのいいホームズであれば、おおかた見当がついたことであろう。
老いにまつわる、死に至る悩みである。死にゆくものが生きているものにどのようなメッセージを残すか
思索をめぐらせるのもよいではないか。明日は我が身である。
女ともだちの娘が婚家先で味わっている、朽ちゆく生命体に翻弄される内部告発とも言うべき現実は、
茶飲み話としては風雅に欠ける嫌いは否めないが、これも何かの巡り合わせ。
隠居前の僕の生業は肉体と精神を外側から診る仕事だった。茶飲み友だちになった、むかしの恋人のこころ
のうちを覗かせてもらえるのは、それはそれでこころときめくものが無いわけでもない。
ホームズの警告が聞こえるよ。
「お人好しのワトソン、図にのっていると今に怪我をするぞ」
いいじゃないか、軽い怪我なら望むところだ。

         ワトソン 

追伸 写真は目黒の庭園美術館である。ぼくは梅だと思うのだが、愚妻は桜だと言ってきかない。       

 

(2010.02.02)


 
 

        

 


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