159 ワトソンの東京暮色(古い知人)

           

 ホームズ殿

東京ぐらしのそもそもの発端は僕の健康状態からであることはホームズも知っているね。
不整脈と自律神経系のなんともいえない不快感、そして手術不能といわれた僕の緑内障。
上京して息子の勤務する病院でこれらを何とか克服して、まあまあ街を散策できるまでになった。
今日は目黒の庭園美術館に行って来た。掃き清められた冬の庭園は静寂のきわみだった。
もっとも、同行した愚妻の果てしないたわごたがなかったらの話であるが。
愚妻のたわごとを聞き流しながら、僕のこころの中はある問題で占められていた。
旅行中のホームズに僕を悩ましている問題を語ることは意味がないことは承知していながら、
永年の癖でやっぱり、自然とホームズに語りかけてしまう。

僕の古い知人より依頼された問題で解決の糸口がつかめないでいる。
古い知人、ホームズも知っているぼくの青春のシンボルだった女性からの相談なのだ。
我がままと身勝手で僕の青春を翻弄したかの女性も還暦を迎えて数年はたっているはず。
僕が彼女を初めて見たのは、髪を三つ編みにしていた中学生だった。末の妹の仲良し友だちだった。
ガリガリにやせた貧相な少女だった。ホームズも知っているように僕は複数の女性とつきあう同時交際
主義だったから、最初は圏外にいた子供だった。おっと、僕の青春懺悔録がテーマではなかった。

最近は話は前うしろになるし、とんでもない方向に飛んでいって収集がつかなくなったりする。
明確に言うと、ぼくの古い女友だちが持ち込んできたのは家庭内紛争事件なのだ。
それも女ともだちの家庭ではなく、彼女の娘が嫁いだ先の問題なのだよ。
茶飲み話としては体裁のいいものではないが僕が話し相手として選ばれたのは光栄と思ってお相手を
つとめていると言うわけだよ。登場人物の説明に不備はなかったかな?

     
      ワトソン        (2010.01.31)


 
 

        

 


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