134 ワトソンの住んだ家々(前置き)





ホームズ殿

ある時期にぼくは突然、自分のそれまでに住んだ家を見て回りたい衝動を感じた。
何かしら触発される理由はあったのだろうが、今にしては失念してしまった。
只それが直腸ガンを発見する直前の時期だったことには因縁じみたものを覚える。
また、これも因縁じみるが 自宅を建て直した直後の時期にも重なる。
家の建て直しが平成62年(1987)で、直腸ガン手術が平成4年(1992)で、この
時は長男が大学生で次男が高校生だった。

当時、忙しい診療の仕事をやりくりしても各地持ち回りでしていた大学の夫人同伴
同窓会にだけは出席するようにしていたので、それに便乗するかたちで自分が昔に
住んでいたことのある家が残っているか見てまわったのである。
ホームズが海原を航海して古き友を尋ねるのとは規模がちがうが、それでもぼくと
しては半世紀も前に住んだ家はもう在りはせぬだろうという想いと、もしかしたら、
まだ在るかもという半々の想いであった。

前置きが長くなってしまったが、もう少し言い訳をしておけば、訪ねた土地は数カ
所であるが行った順序が正確に思いだすのが難しい。
順序とか年号とかは勘弁してくれたまえ。
今に至っては記憶に残っている情景をスケッチ風に書き出すだけである。
ホームズに“ずさんさ”を指摘されるかもしれないが、まあワトソンとはこんな男
だと承知してくれたまえ。

ワトソン

 

 


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