128 古き友を尋ねて(Mrs. MSのケース)





(その3) Mrs. MSのケース。

彼女は僕より5歳ほど年上であった。 
夫に死に別れて以来、南カリフォルニアの隠居村に住み、悠々自適の生活をしていた。 
僕が電話をしてもなかなか通じない。 
カルチャー講義の出席とか、同じ隠居仲間とピクニックに出ていたとか、
ともかく社交生活が盛んだったのだ。
彼女のエネルギーにはおそれいるばかり。 

ところが、4年ほど前電話をしたら、「どうも身体の調子がすっきりしない」と
こぼした。
彼女は91歳だったが、彼女がこぼしたのを耳にしたのはその時が初めてだった。 
“これはいけない、ぜひ会いに行こう”と思って、僕は手続きをした。 
飛行機には乗りたくないので、クルーズでバンクーバーからロサンジェルスまで
船でいき、そこからレンタカーで彼女を訪問することにした。 
ようやく手配が整って、2ヶ月後に出発した。

レンタカーで隠居村にたどりついてみると、彼女が居ない。
門番にきいてみると、彼女はしばらく留守にしているという。 
あれこれ調べてみてようやく分かったが、彼女は2週間前に病院に運びこまれて
いたのだ。
160キロもはなれた病院を探しあてて、たづねてみると、やせ衰えた彼女がいた。 
血液検査をしているが、原因がわからないという。 
それでも僕の顔をみることができて、喜こんでくれた。
僕が帰宅してから2週間ほどしてから、自立している彼女の息子が彼女の死を知ら
せてくれた。 
僕は間に合ってほっとした。






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