ホームズ殿
ハドソン婦人の近況については伝えたいことは山ほどもあって、何から伝えていいのか、、、
深く考えないで最新の驚きから伝えよう。
ハドソン婦人という女性は古風な慎みがあって公衆浴場という所を好まない女性であった。
温泉などという公衆の面前で裸体をさらすことに深い羞恥心があった。
ところが、彼女の娘が(といってもこちらも老女であるが)ハドソン婦人の羞恥心という衣を
かぶった自意識をやわめる一歩として温泉に行くことを思いついたのだ。
当然のこと最初は嫌がって抵抗したようだ。
「骨皮の裸は恥ずかしい」とね。
老いたれば、孤高の自我を持ち続けることにはきびしいものがあるはず。
誰かの世話を喜んで受けると言う訓練をしなければと、娘さんは知恵をめぐらせて家族風呂と称する
個室タイプの温泉を選んで連れ出したそうだ。
弘前近郊には手軽な温泉がたくさんあるのだよ。
ぼくはハドソン婦人に娘がいたとはついぞ知らなかった。
なんでも、ハドソン婦人の骨皮の肉体の特徴は遺伝しなかったといういうことだ。
ワトソン
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