123 また旅に出る(ハドソン婦人)

ホームズ殿

君がぼくのために書きためておいてくれた文章はぼくを慰めてくれる。
それがどれほどのものか、君は想像できるだろうか。
長旅にまた出かけるホームズがぼくの心の内側に戻ってくるという保証は
どこにもないということでぼくは寂しい想いに取り憑かれていた。

そんなぼくを思いやって、『古き友を尋ねて』の文章を書き置いてくれたくれた
君にぼくからもお返しをしたい。

ホームズが一番知りたい人物の近況を報告してあげることを思いついた。
ベーカー街221Bの下宿の女主人だった、ハドソン夫人だよ。
すっかり老込んでしまっているが、昔の君の助手まがいの手伝いをさせられた
ことは覚えていて、ホームズのことを懐かしがっている。
弘前の中心部よりは離れた閑静な住宅地に住んでいる。
ホームズは女嫌いで通っていたけれども、ハドソン夫人だけは特別だったよね。
異性としてではなくて人間として高く評価していたことは承知していたよ。

最近ではぼくはハドソン夫人とお茶を共にすることが、たびたびあるのだよ。
ほらほら、彼女のところで話し込んで小腹のすいたときなどに、ちゃちゃと
作ってくれる懐かしい例のヤツだよ。
リンゴを薄くスライスしたのをメリケン粉のどろっとしたのに混ぜて、
フライパンでこんがり焼く、例のあれだよ。
ロンドンのベーカー街でのリンゴはあんまり上等とは言えなかったが、
ここ弘前のりんごは日本一だからね、ハドソン夫人特製のアップル煎餅は
まったく素晴らしいの一語だ。

ワトソン

 


またたび館トップページへ戻る