120 古き友を尋ねて(顏を見ておきたい)


 

 

 

親愛なるワトソンへ



詮索好きなワトソン君、君は昔からぼくのことは何でも好奇心をもって接してくれた。
そのことは、ぼくの自尊心をくすぐり、表情にこそ出さなかったが、
いつも心地よい自己陶酔をこころの奥深くで感じていたことを今こそ白状しよう。
ぼくは君の無邪気とも言えるぼくに対する崇拝の眼差しなくして、あれほどの事件
解決は出来なかったと思うのだ。

ここ数年、僕は古い友人を訪問することを中心に旅行のプランを立てている。 
取り返しのつかないニュースを受け取るまえに、顔をみておきたいという願望からである。 
あるときは間に合ったが、間に合わない場合もあった。

詮索好きな君のために、特別にぼくの深いこころの底の想いを書き送ることにする。
なんて、勿体ぶってみせたが、本当は誰かに告げたいという願望もなかったわけではない。
ぼくの再度の長旅のあいだを寂しがらずにすむように書きためておいた。
読んでくれたまえ。

ホームズ 


 

 

 


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