ところが、僕の若い歯科医(といっても55歳ほどであろうか)は、「そんなことは必要ありません。
そのままに隙間をあけておいても、残りの歯が適当にアジャストして、日常生活には支障ありませんよ」
と言って、うけあわなかった。
89歳にもなる老人が、あごの骨にドリルで穴を掘ってピンをさし、そのピンに人工歯をとりつけるなどと
いう大げさなことをするは時間と費用の無駄と思ったらしい。
ドリルを使っている最中に心臓発作でポックリといく可能性もあるではないか。
ところが、あの歯科医は全く誤っていた。
あの隙間をそのままあけておいたので、食べ物を咀嚼(かむこと)するときの圧力が近辺の歯に余分にかかり、
そのためにこの大きな詰め物をした歯がかけたとしか考えられない。
歯のかけらを手にしながら、僕は自分の正しさが証明されたという気がしたものだ。
そこで、帰国そうそう、歯科医通いというわけである。
僕が若い歯科医にどんな説教をしたかは、医者と患者間のプライバシー法にかかわるので、省くことにする。
ホームズ
|