047 四つの証言(哀しくなる)

 
            ホームズ殿
 

           3か条からなる、可能性の提示だが、残念ながら、どれも、
           うなずけない。

           ぼくのことを避けていた、夜にガラス窓を叩く茶太郎の心理分析を
           して貰って、ホームズの『愛情の表現』という分析に力を得て、
           茶太郎に接したところ、彼は今ではまったく他の猫と同じに可愛い
           猫になってくれたのだ。
           このことは、ホームズ、君のお陰だよ。生涯の恩に着るよ。

           本件のスミレはどうも根が深いところにあるような気がする。
           思いだしたのだよ。スミレと一緒に生まれた猫たちが一年も
           過ぎた頃に避妊、去勢手術をした時のことだった。
           その頃は猫たちはフェンス内でくらすようになっていたし、もう
           お産はさせられない状態になっていた。16匹になっていたんだよ。
           行きつけの動物病院にカゴに入れて数匹を連れて行ったのだが、
           その時は何ら問題はなかったのだが、一週間しての抜糸処置の時に
           スミレはどうしても捕まらないのだ。
           逃げ回って絶対に捕まらない。
           仕方がないのでスミレだけは、抜糸をしてやれなかったのだ。
           結局、スミレは自分で噛んで腹部の抜糸をしたのだよ。
           思えば、あれ以来、ぼくだけでなく人間を遠ざける猫になったよう
           に思う。
           手術がよほど怖かったのであろうが、すべての猫に施しているのだから、
           スミレだけが特別というわけではないので、その内に普通に戻ると
           おもっていたが、戻らないのだよ。
           スミレは仲間のあいだで、逃げ腰が個性になっている猫には意地の
           悪い態度にでるというところはある。
           だから、気の弱い猫ではない。
           母猫の黒ぴーにも祖母猫のベアにも 優しくしているのを見たことがない。
           
           何だか、哀しくなるのだよ。

           以上 ワトソンより報告完了

 

              

 

         

 

 


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