046 四つの証言(三つの可能性)




親愛なるワトソンへ

僕の要点がわからないというが、それは君の頭がボケてきたからか、それとも僕の文章が
まずいのか、どちらであろうか?という追求はここでは避けることにする。 

最後の番である“はなちょ”の証言を読ませてもらった。 
「、、、ご飯をくれる園長先生がきらいなのはどうしてか、わからない・ 変猫なんだ、
スミレは。」 ここに解決の鍵がある。 
“変猫”というレッテル。 人間の集団を考えてみてくれたまえ。 
10人の人間を集めたら、その中に変わり者がいるのはあたりまえ。 
猫が16匹もいたら、変わり者も、知能の低い者も、精神が通常でない者も混じっているの
は自然ではないだろうか。 

そこで、スミレのケースでは三の可能性がある。
1) 知能が低いため誰が自分の世話をしてくれる人の認識がない。
2) 神経衰弱である。
3) 君とスミレは飼い主とペットとして感情的なつながりを確立する(ボンディングという)
   ことができなかった。

それぞれの解釈に注意事項を付け加えたい。
1)野生のように自分で餌をさがさなければならない環境では、餌をくれる人間のありがたみを
  理解するのは簡単である。しかし、保護地区においては、寝床と餌はいつもあるので、その
  ありがたみを認識するとはかぎらない。普通の知能があってもそれを認識しない可能性がある。

2)精神の病というのは思いのほかに多いのである。僕の個人的な経験からいうと社会の2割の
  人間はその人生において一時的であるか、あるいは長期の精神的異常を経験している。 
  猫の社会といえども、それからかけはなれているとは思われない。 
  ことさら、犬と異なって個人主義的な猫が16匹も同じ屋根の下に暮らしているのなら、
  ストレスに負ける猫があらわれるのは理解できる。

3) 母親と新生児のボンディングの重要性はよく知られている。 
   飼い主とペットのボンディングも同じこと。 
   その時期をのがすと、とてもむずかしい。

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