044 四つの証言(犬にネコ?)



   親愛なるワトソンへ、

   祖母猫のベアと君の証言を読んで僕はスミレに対する憐憫の情を禁じえない。 
   一体だれがスミレのことを理解してくれるのだろう?

   ベアは人間の年齢にすれば80歳を超えるのではないだろうか? 
   「人間の飼い主が好きでない猫は野良猫になってしまえばいい」
   という見解はこの21世紀の時代には時代錯誤の感がする。 
   餌をくれる飼い主がすることなら何事も我慢するべきだ、
   とはあまりにも個人ならぬ個猫の自由と権利を無視した意見である。 
   現代の猫は衣食住の基本的権利を持っているはずである。 
   (失言:“衣”はどの猫も生まれつきもっているから、はずしておこう) 
   その条件がみたされてこそ、猫はまっとうな猫でありうるし、自由な思想を
   持つことができる。 自由な思想と行動こそ現代の象徴である。

   さて、ワトソン、名前をスミレからポチにかえようという君のアイデアである。 
   僕が指摘するまでもなく、君はその軽薄さに気がついたようだね。 
   猫が16匹もいたら、お気に入りができるであろうことは理解できる。 
   しかし、16匹の猫がいたら、器量のよいのも悪いのも、それらの一匹一匹が
   君の愛情を100パーセント要求していると思いたまえ。 
   君は身体が一つしかないから、100パーセントを16で割って、一匹あたり
   6パーセントちょっとの愛情をあげるというわけにはいかない。 
   100パーセントを16倍しなければならないのだよ。 

   僕の知り合いだが飼い犬に“ネコ”という名前をつけた人がいる。 
   “ネコ、ネコ”と呼ぶ声を聞いて、ご近所の人たちがきょろきょろと
   あたりをみまわしたそうだ。 
   その犬は死ぬまで“ネコ”という名前だったが、問題をおこしたことは全くなかった。 
   そこの家ではその犬のほかに猫が一匹いたが、双方ともしごく性格がよかった。 
   それぞれが受けた愛情に満ち足りていたのだ。

   ホームズ



 


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