030 恐怖の舟(あわや転覆!)

 

 

 

 

 

 

 

 




   

    (028)より続く

    座っているメンバーにはあまり感じられないが、立っている僕にはそのうねりがよく見えるし、
    身体に感じられる。 救命胴着をつけているとはいうものの、僕は泳ぎが苦手だ。 
    それより、全員の安全は僕の舵取りにかかっているのだと思うと、その責任の重さに身震いした。 
    もし波がさらに高くなって、転覆したら、どうなるだろう! 80歳の老女ものっているのだ! 
    それに、端の向こう側禁止に逆らったコーチの責任問題もおこる、、、。 
    波の揺れで足元をすくわれて落船するのを恐れて、僕はしゃがんで舵をとることにした。 
    ところが、もう、どっちの方角に舵を向けていいのか、判らない。 
    か細い声でコーチに呼びかけた。「舵はどっちの方角に向けるべきかい?」 
     彼には聞こえなかったらしいが、近くに座っていたメンバーが教えてくれた;
   「自分が行きたい方向と逆の方向に舵をむけるんだよ。」 
   
     そのアドバイスに従ったら、すぐにボートは岸に近いコースにもどった。 
     ほっとしたところで、コーチが全員の個人指導をおえて後尾にもどってきた。 
    「どうした、しゃがんだりして。 船酔いかね?」 
    「いや、僕はあまり泳ぎが得意じゃないので、、、。」 それから全員で漕いで無事帰路についた。 


    あの時の心細い思いといったらなかった。 
    自分の安全よりも、他人の安全確保のほうが、ずーっと重く心にのしかかった。 
    その思いから回復するのに数日かかったというわけだ。 (完)

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