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 (028)より続く
 
 座っているメンバーにはあまり感じられないが、立っている僕にはそのうねりがよく見えるし、
 身体に感じられる。 救命胴着をつけているとはいうものの、僕は泳ぎが苦手だ。
 それより、全員の安全は僕の舵取りにかかっているのだと思うと、その責任の重さに身震いした。
 もし波がさらに高くなって、転覆したら、どうなるだろう! 80歳の老女ものっているのだ!
 それに、端の向こう側禁止に逆らったコーチの責任問題もおこる、、、。
 波の揺れで足元をすくわれて落船するのを恐れて、僕はしゃがんで舵をとることにした。
 ところが、もう、どっちの方角に舵を向けていいのか、判らない。
 か細い声でコーチに呼びかけた。「舵はどっちの方角に向けるべきかい?」
 彼には聞こえなかったらしいが、近くに座っていたメンバーが教えてくれた;
 「自分が行きたい方向と逆の方向に舵をむけるんだよ。」
 
 そのアドバイスに従ったら、すぐにボートは岸に近いコースにもどった。
 ほっとしたところで、コーチが全員の個人指導をおえて後尾にもどってきた。
 「どうした、しゃがんだりして。 船酔いかね?」
 「いや、僕はあまり泳ぎが得意じゃないので、、、。」 それから全員で漕いで無事帰路についた。
 あの時の心細い思いといったらなかった。
 自分の安全よりも、他人の安全確保のほうが、ずーっと重く心にのしかかった。
 その思いから回復するのに数日かかったというわけだ。 (完)
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