016 茶色の研究(虫をとらえるため)

 

 





   親愛なるワトソンへ








   茶太郎がまたまた深夜に君の寝室の窓を叩いたそうだね。 
    例のごとく、調べてみても何も不審な様子は無く、君もついに茶太郎の不思議な行動は
    不吉な出来事のまえぶれではなさそうだ、と納得せざるをえないようだ。 
    しかしながら、“それはかの猫の愛情の表現である”という僕の解釈には半信半疑のようである。 
    そのとおり。 
   君の今回の報告を受け取って、僕はあれが不十分な情報に基づく“仮説”にすぎないことに気がついた。 
    僕の仮説を訂正する:茶太郎は“君に対する愛情”のために窓を叩いたのではなく“夜に室内の明かりを
    めがけて窓の外に寄ってくる虫や蛾をとらえる”ために窓を叩いたのだ。 
    それは夏の夜に起こる現象である。 (君が以前にくれた情報には季節がぬけていた。) 

   
    子供のころに思いでがある。 家族が夕食をとる部屋にはガラス窓があった。 
    真夏の夜には灯りをもとめて蚊や蛾が窓の外に集まるのが室内からよく見えた。 
    ある夜、それらの虫をめざして、小さなカエルが現れた。 
    もって生まれた吸盤を使って、窓ガラスにへばりついたのだ。 
    というわけで、室内からは辛抱強く餌が飛びよってくるのを待つカエルの白い腹側がよくみえた。 
    それは四晩も続いた。 なかなか賢いカエルである。 

   
    茶太郎は餌を捕まえるつもりではなかったろうが、ちらちら飛び交う蛾や蚊には手を出さずにはいられな
    かったのではないだろうか。 ワトソン、この新解釈はどうかね?またまた昼食の時間となってしまった。 
    僕のカヌーやカレン嬢に関する質問にはこの次に答える。

   
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