015 茶色の研究(お安くないぞ)





親愛なるホームズ殿

ぼくは、まことに、まことに、満足であることをまず伝える。
ホームズ、君はまことにホームズそのものである。
ぼくの期待を越えて、まことにホームズであることに賛辞をおくる。
余人は知るまいが、これは君とぼくとの二人だけにのみ通じる賛辞である。

先般の手紙で,ボート活動のことを伝えてくれたが、ぼくはぼくの猫たちの
系図で頭がいっぱいで、君の活動に言及しなかったことをお詫びする。
ところで、行事に一緒に参加するカレン嬢とはいかなる女性かね。
ホームズ、ぼくたちの中で隠しっこはなしだぜ、なんて野暮はいわないが、
どんな女性なのか雰囲気だけでもおしえてくれてもいいではないか。
お安くないぞ!

肝心な報告が後になった。
くだんの茶太郎が昨夜久しぶりにぼくの寝室の窓を叩いたのだよ。
飛び起きたら、夜の12時過ぎ頃だった。カーテンをめくって見たら
茶太郎だった。3メートルのフェンスで囲った猫サークルは庭園灯で
見渡せるのだ。サンダルをつっかけて出てみたら、星空のもと茶太郎は知らんぷりの顏なのだ。
ホームズが言うように、茶太郎はぼくに対する愛情の表現でガラス窓を叩いていたにしては
あまりに白々しい表情だ。他の猫たちは真夜中のぼくの訪問に喜んですり寄って来るのに、
彼は知らんぷり。
不審な人影もなし、猫たちはいつもどうりにしているし茶太郎に少し話しかけてからベット
に戻ったというわけだ。夜中に窓ガラスを叩くのは、茶太郎の脳細胞がなにかのはずみでおこす
現象であるととらえるべきであろう。仮説として、ぼくに対する“愛情!”素敵な響きではないか。
怪事件とは無関係だという君の意見に承服した。

「3日前にとてつもない経験をした(引用)」とは、君がぼくに対してのいつもの気を引く
したたかさと評する、あれの真似かい?
ホームズ、君は辛辣すぎるよ。
ぼくは、善良な君の助手でしかなかったことは充分に承知しているのだ。
それは、今だって同じだよ。

ワトソン


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