親愛なるワトソンへ
「君の返事がぼくの力の元だよ」と告白されていながらそれにすぐ応答できなくて申
しわけない。 しかしその言葉も君の数多い“策略”のひとつであることは疑いない。
むかし僕は“したたかなワトソン”という表現をよく使ったものであるが、それは隠
居生活をする現在でも当てはまるようだ。
君の鋭敏な感受性もそのままだ「何故ならば、君がぼくの猫たちが面倒くさくなった
のではという危惧を感じたから(引用)」たしかに、現在君が管理する保護地に居住
する16匹にものぼる猫たちの(人間関係ならぬ)猫関係をえんえんと説明されても、
実際にこの眼で観察することのできない僕には混乱をきたすばかり。そこで、君が手
段を変更して、その初代の猫たちにフォーカスをおいたのは正解である。聖なる書は
やはり創世記からはじまらなければならない。“最初に雪之丞がいた。ブルーバード
があって、それでチルチルとミチルはやってきた、、、” そうして読者である僕は
猫たちを(個人的ならぬ)個猫的に知り合うことができるのである。
ここではっきり言明しておくが、僕はけっして“猫ども”という表現をつかってはい
ない。失礼しないようにといつも意識して“猫たち”という名詞を使っている。君の
糾明は僕に負い目を感じさせようとするしたたかな策略の一つとおもわれる。 とい
うと、君が“記憶力のおとろえ”と“有能な秘書の不在”を言い訳にするのは想像に
かたくない。
ところで、僕がここ3日間便りを送れなかった理由を告げたい。 君が猫たちに熱中
しているごとく、僕はこの夏ボートやカヌーに熱中していることはもう話したね。
3日前にとてつもない経験をしたのだ。 その衝撃が大きくて、体力と気力を回復す
るのに間がかかったのである。
さてもう昼食の時間だ。 とりあえずこれを送ることにする。 詳細はこの次に。
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