013 茶色の研究(先が見えない)

親愛なるホームズ殿

さっそくの返答をありがとう。
それも、まんまとぼくの策略にはまってくれたとほくそ笑んでいる。
茶太郎についての相談の途中経過でこんがらかってきたのは、ぼくの筆力不足もあるのだが、
ホームズ、君に疑問ををおこさせて、ぼくの猫たちに注目することをもくろんだのも幾分あ
ったことを白状する。

ぼくの現役時代のセリフ「薬のききめを診たいので明日も来てください」なんてね。
患者さんの意識向上を喚起(かんき)するのと、よそに逃げられないためと、それに自分の
営業でもあるしね。
ホームズがぼくの猫たちに関心をもってくれることを期待したわけだよ。
何故ならば、君がぼくの猫たちが面倒くさくなったのではという危惧を感じたから。
最初にホームズは「君の猫ども、、、」と言ったね。
ぼくはね、これでも人知れず傷つく男なのだ。「猫ども、、、」なんて。
猫たちは厄介な面もあるが、ぼくにとってはふる里なのだ。

なんてお涙頂戴はチョン。

冷静な観察者に戻って報告する。
10年くらい前にぼくは日産自動車のブルーバードに乗っていたと思いたまえ。
ぼくの実家の母が小屋に野良猫が子猫2匹を産んだと電話してきた。
見にいったら、あまりの可愛さにうっとりしていたら、母が「可愛がってくれるのなら
あげるよ」と。
それから「2匹を離ればなれにするのは可哀想だから2匹一緒に貰っておくれ」と。
ことわっておくが母猫が言ったのではなく、ぼくの母親が言ったのだ。
母の飼っているおっとりした青い目のオスが孕ませた野良猫が物置小屋に産み落として
「責任を取っておくれ」とぼくの母をおどしていたのだね。きっと。
当時ぼくの家には雪之丞という素晴らしい白猫が居た。全身真っ白で頭のてっぺんにだけ
斑点がある猫でまるで白塗りした女形役者を連想されるので、雪之丞と名付けていた。
夜遊びばかりして家にあまり居ない雪之丞より、可愛い2匹の子猫が欲しくなったのだ。
母も貰い手に困っていたしね。
そこで先に述べた、ブルーバードに乗せて連れ帰った。ブルーバード、青い鳥といえば
「ちるちる、みちる」ではないか。そこでオスの白猫はちるちるで、メスの白黒はみちる
と名付けた。
お役者猫の雪之丞はオスながら2匹の子猫を尻尾であやしたり、夜遊びをやめて、子猫
の面倒をみたのだよ。添寝してやると2匹は乳房を捜すのだよ。オス猫でさえ、、、、
お涙頂戴をしてはいないよ。

今朝は、ここまでだ。話の先が見えないでぼくも焦ってきた。
実家の老母の検診日に付添うのだよ。耳が遠いのでね。
君の返事がぼくの力の元だよ。

ワトソン


またたび館トップページへ戻る