親愛なるワトソンへ
君の猫たちに関する熱意のほどは全く想像に絶する。猫たちの分類の詳細さは老年が忍び寄って
いる僕の頭脳ではそくざに消化できかねた。家系図にしてくれれば助けになるが、、、。 という
ところで、注意を喚起したい点がある。君は茶太郎の家系はしっかりしているという証拠として、
母親は“茶子”そのまた母親は“プリン”としているが、それは片手落ちではないかね? 父親は
どうなのだ? プリンの連れ添いは? 茶子の連れ添いは? また、僕が知っているかぎりでは、
猫や犬は共通の母親から同時に生まれた兄弟であっても、父親が異なるのが一般的なのだよ。
だから遺伝子による性格の分類は至難の業である。残念ながら僕の身近には観察の対象となる猫が
一匹もいないので、猫の生態観察や分析にかんしては、ワトソン、君の一人舞台だよ。
ところで 返答が遅くなって申しわけない。ここ数日忙しかったのだ。僕がドラゴンボートのメン
バーであるのは君も知っているはずだが、今回それに加えて、アウトリガー(outrigger)を試して
みることにしたのだ。“アウトリガー”というのはハワイやポリネシアで使われるカヌーの一種で
ある。非常に幅の狭いカヌーで、転覆をおさえるためにカヌーの本体と平行に支えの浮上物がつい
ている。南洋ではココナツ林を背景に、澄み切った遠浅の海をこれを使ってすいすいとまわるので
ある。
しかし、バンクーバーでの現実はそうはいかない。第一に、白砂糖をちらしたような浜辺ではなく、
泥まみれの海岸なのだ。これは鮭が産卵する川が海に流れ込むためで、いたしかたない。さらに、
この6人乗りのボートは8メートルほども長く浮上物は1.5メートル離れて並行している。かなり重
量があるので、6人がかりで押したり担いだりでボート庫から海岸まで運び、にごった水に浮かば
せてから、僕たちこぎ手は泥の中を歩いて、ボートに乗船しなければならない。それでも、この短い
夏の野外生活を楽しもうと、僕はやることにきめたのだよ。全部で8回のレッスンである。第一レッ
スンはボートが転覆したときに、いかにしてそれをもとの位置にもどすか、ということである。
サイズが大きいので不便なことはなはだしい。まあ、いかだに乗せた大きな青森ネブタが転覆して、
それをもとに戻すことを想像してほしい。僕たちは全員、水中に落ちる;ボートのあちこちの部分を
押したり、引っ張ったりして、正しい位置に回復する;そしてボート内にたまった水を大急ぎでかき
出すのだ。泳ぎが得意ではない僕であるが、救命ジャケットをたよりに、やってみることにする。
ホームズ
追伸:君の眼の診断結果は?
僕はながらく白内障をわずらったが、昨年手術して文字通り世界が明るくなったよ。
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