010 茶色の研究(研究は中断する)







親愛なるワトソンへ

君の猫たちに関する熱意のほどは全く想像に絶する。猫たちの分類の詳細さは老年が忍び寄って
いる僕の頭脳ではそくざに消化できかねた。家系図にしてくれれば助けになるが、、、。 という
ところで、注意を喚起したい点がある。君は茶太郎の家系はしっかりしているという証拠として、
母親は“茶子”そのまた母親は“プリン”としているが、それは片手落ちではないかね? 父親は
どうなのだ? プリンの連れ添いは? 茶子の連れ添いは? また、僕が知っているかぎりでは、
猫や犬は共通の母親から同時に生まれた兄弟であっても、父親が異なるのが一般的なのだよ。 
だから遺伝子による性格の分類は至難の業である。残念ながら僕の身近には観察の対象となる猫が
一匹もいないので、猫の生態観察や分析にかんしては、ワトソン、君の一人舞台だよ。 

ところで 返答が遅くなって申しわけない。ここ数日忙しかったのだ。僕がドラゴンボートのメン
バーであるのは君も知っているはずだが、今回それに加えて、アウトリガー(outrigger)を試して
みることにしたのだ。“アウトリガー”というのはハワイやポリネシアで使われるカヌーの一種で
ある。非常に幅の狭いカヌーで、転覆をおさえるためにカヌーの本体と平行に支えの浮上物がつい
ている。南洋ではココナツ林を背景に、澄み切った遠浅の海をこれを使ってすいすいとまわるので
ある。

しかし、バンクーバーでの現実はそうはいかない。第一に、白砂糖をちらしたような浜辺ではなく、
泥まみれの海岸なのだ。これは鮭が産卵する川が海に流れ込むためで、いたしかたない。さらに、
この6人乗りのボートは8メートルほども長く浮上物は1.5メートル離れて並行している。かなり重
量があるので、6人がかりで押したり担いだりでボート庫から海岸まで運び、にごった水に浮かば
せてから、僕たちこぎ手は泥の中を歩いて、ボートに乗船しなければならない。それでも、この短い
夏の野外生活を楽しもうと、僕はやることにきめたのだよ。全部で8回のレッスンである。第一レッ
スンはボートが転覆したときに、いかにしてそれをもとの位置にもどすか、ということである。 
サイズが大きいので不便なことはなはだしい。まあ、いかだに乗せた大きな青森ネブタが転覆して、
それをもとに戻すことを想像してほしい。僕たちは全員、水中に落ちる;ボートのあちこちの部分を
押したり、引っ張ったりして、正しい位置に回復する;そしてボート内にたまった水を大急ぎでかき
出すのだ。泳ぎが得意ではない僕であるが、救命ジャケットをたよりに、やってみることにする。

ホームズ


追伸:君の眼の診断結果は? 
    僕はながらく白内障をわずらったが、昨年手術して文字通り世界が明るくなったよ。


              

 


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