親愛なるワトソンへ
茶太郎とその母猫である茶ピー(茶子?)の間にある
複雑な関係を君が解説してくれたので、僕の確信はま
すます深まった。つまり、中年のメス猫というより、
壮年で世界をまたにかけて活動する茶ピーの行動は、
茶太郎にとって憩いの源であるはずの母親のイメージ
から程遠い。茶ピーが小鳥やネズミをつかまえてきて
も、それは茶太郎や身内の猫どもにやる餌としてでは
なく、飼い主である君に見せるトロフィーのつもりで
持参するのだよ。
つまり、去勢されているとはいえ、
オスである茶太郎は通常ならば猫の共同体のなかでリ
ーダーになっても不思議でないのに、母親である茶ピ
ーが最大のライバルなのだ。それだからこそ、いつも
自宅で餌をあたえ、水を取り替えてくれる管理人であ
る君のほうが茶太郎にとって保護者のイメージが強く
なるはずだ。自分を保護してくれる者には人間ならず、
動物でも温情をいだく。
しかしながら、「君があまり
に早く茶太郎の奇妙な行動を解明してくれたので実は
拍子抜けした、、、」との言葉は、あまりにも早すぎ
る。本人(本猫)の茶太郎が「まさに、そのとおりで
ございます」と認めないかぎり、僕の解明は単なる推
測にすぎない。残念なことに茶太郎は人間でないので、
裁判官の前でその証言を要求されたり、精神分析医の
ベットに横たわって告白することはないであろう。
そこで、ワトソン、君のたゆまぬ観察がこの僕の推測
が的をえているかどうかを決定する鍵を提供するので
ある。
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