008 茶色の研究(母猫の存在)




   親愛なるワトソンへ

   茶太郎とその母猫である茶ピー(茶子?)の間にある
   複雑な関係を君が解説してくれたので、僕の確信はま
   すます深まった。つまり、中年のメス猫というより、
   壮年で世界をまたにかけて活動する茶ピーの行動は、
   茶太郎にとって憩いの源であるはずの母親のイメージ
   から程遠い。茶ピーが小鳥やネズミをつかまえてきて
   も、それは茶太郎や身内の猫どもにやる餌としてでは
   なく、飼い主である君に見せるトロフィーのつもりで
   持参するのだよ。

   つまり、去勢されているとはいえ、
   オスである茶太郎は通常ならば猫の共同体のなかでリ
   ーダーになっても不思議でないのに、母親である茶ピ
   ーが最大のライバルなのだ。それだからこそ、いつも
   自宅で餌をあたえ、水を取り替えてくれる管理人であ
   る君のほうが茶太郎にとって保護者のイメージが強く
   なるはずだ。自分を保護してくれる者には人間ならず、
   動物でも温情をいだく。

   しかしながら、「君があまり
   に早く茶太郎の奇妙な行動を解明してくれたので実は
   拍子抜けした、、、」との言葉は、あまりにも早すぎ
   る。本人(本猫)の茶太郎が「まさに、そのとおりで
   ございます」と認めないかぎり、僕の解明は単なる推
   測にすぎない。残念なことに茶太郎は人間でないので、
   裁判官の前でその証言を要求されたり、精神分析医の
   ベットに横たわって告白することはないであろう。

   そこで、ワトソン、君のたゆまぬ観察がこの僕の推測
   が的をえているかどうかを決定する鍵を提供するので
   ある。

   ホームズ


またたび館トップページへ戻る