006 茶色の研究(愛情表現)


親愛なるワトソンへ、     

茶太郎とその一族である猫どもの写真はたしかに受け取った。
きれいなカラーのプリントで印刷してファイルにいれておいた。
ところで、前回のレポートの締めくくりに「堂々巡りで話が展
開しないな。ぼくがイライラしてきたよ」と君は記したが、ま
さにあのレポートのおかげで、僕には謎がとけた。

猫の奇妙な行動は事件の前触れや、不吉な予告でもない。茶太
郎は君に対する愛情の表現で窓を叩いていたのだよ。意外だっ
たかい?さて、僕の推理を述べることにする。

君の報告によると、茶太郎は数年前から月に2,3度の割合で
窓を叩いていた。そのつど君は外に出て不審な人物がいないか
あたりをうかがったという。それがいつも何も無い結果におわ
る。ここで注意しなければならないのは、もし不審な人物なり
動物がいるなら、猫はその侵入者にたいしてうなり声をたてる
ものだ。異常をしらせるのに窓を叩くというのは人間に特有の
動作であると僕は考える。

さて猫が窓を叩くというのは、実は『招き猫』のしぐさにみられるように、猫がその喜びを表現して
いるものではないかとおもう。猫がちょっかいをだすような手つきで飼い主のズボンのすそを触る様
子をみたことがあるだろう。同様に、猫がのどをならしながら床に爪をたてるのも、嬉しいときにす
る表現だ。それでは、どうして、「不思議なのは必死に僕を呼んでおいて、知らんぷりなの」か? 
その理由は君自身が説明してくれた。「特に茶太郎は媚びない猫なのだよ。自分から人に寄ってくる
ことは絶対にない、、、つまり、ぼくに対してさえ、いつも距離をおくのだよ。」つまり、愛情はあ
るが、茶太郎はその距離を保っているのだよ。気分が乗ったときに自分で窓の外までやって来るのは
よいが、君から近寄られるのは嫌なのだよ。それは野生に育った動物に一般的にみられる習性である。

僕が野生のカラスを餌付けた話は君も知っているだろう。もうかれこれ4年にもなる。毎朝二羽のカ
ラスが台所の外にある姫りんごの枝にやってくる。とりわけ一羽は積極的で、窓のすぐ外においてあ
るテープルの上にのって台所をのぞきこむ。窓ガラスで隔たっているものの、たった1メートルしか
離れていない。それでも、僕が餌をもって外に出て行くと、僕から離れていく。安全距離を保つ習性
なのである。僕が庭仕事をしていると、すぐそばの塀によってくる。それでも、僕が近づこうとする
と離れていく。茶太郎と同様だ。

ワトソン、これが僕の茶太郎の奇妙な行動に関する僕の見解である。

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