親愛なるホームズ殿へ
バンクーバーの君の庭には花々が咲き乱れているこ
とだろうね。お別れしてからもう何年になるか。
ぼくは患者さんとも別れて引退生活に入ってのんび
りくらしの3年目である。ねぷた祭りがおわって残
暑たけなわだよ。趣味の鉄道模型も時間はたっぷり
あるものの目の方が疲れてね。そうそう、愚痴をい
うために手紙を書いているのではない。
実は折り入って相談があるのだよ。
猫を飼っていることは承知だね。
10匹以上はいるのだよ。
その猫のなかの一匹がね、真夜中に寝室のガラス窓
をさかんに叩くのだよ。ほんとうに、トントンと叩
くのだ。カーテンを開けてみると『茶太郎』という
名前の茶色のオス猫なのだ。あまり叩くので出て行
って見るけれども、別段変わったことはないのだね。
最初は泥棒がきたのを知らせているのかと思ったほ
ど必死に叩くのだよ。「茶太郎、どうした、腹でも
痛いのか?」と訊ねても平気な顏をして知らんぷり。
茶太郎のやつ、どういう意味なのだろう?
その昔に幾多の怪事件を解決した君に、
こんなこと相談して怒っちゃうかな。
弘前のワトソンより |